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塩野七生「ローマ人の物語」よりキリストの勝利
文庫版が待ちきれず新書版で読んだローマ帝国の末期を描いた「キリストの勝利」。
新書版では14巻。高校生の時以来、あれだけ迫害されたキリスト教がなぜ国教になり
中世へと向かったかずっと疑問だった私にとって待望の一冊でした。
この巻では全盛期には「寛容」を最高の美徳とし、おおらかな多神教のもと多種多様な
価値観を認め、敗者からも賞賛を受けたローマが一神教のキリスト教に覆いつくされて
ゆくプロセスを描いています。頭に入れていただきたいのは塩野さんが国家を支配する
宗教(キリスト教)に批判的な立場を取っておられることです。

帝政ローマ初期に迫害されたキリスト教が突然これだけ保護されるようになった理由。
一言でいうと社会の弱体化。不安な世で何かを信仰したくなる人間の性。
これこそがローマ帝国のキリスト教の隆盛の理由です。

3世紀は皇帝が出ては殺されの世紀でペルシャには敗れ、異民族の侵入は繰り返され
国家は疲弊しきっていました。一般市民も公がしてくれない病人や孤児の世話などをする
キリスト教に傾倒するようになり、政治的に優れた感覚を持ったコンスタンティヌスは
元老院と市民に承諾を得た従来の皇帝では政局は安定しないと考え、皇帝の権威を神に
求めようとします。その後の王権神授説の始まりです。神の言葉を伝えるのは聖職者。
こうやって聖職者は皇帝以上の権威を持つようになり時代は中世へとなだれこんでゆきます。
(現代でもキリスト教国の国王が聖職者に戴冠してもらうのはこの伝統に立つものです)

聖職者に権力を牛耳られることを警戒したのかコンスタンティヌスが洗礼を受けたのは
死の直前でした。ところがテオドシウス帝は病気をした30代で早くも洗礼を受けてしまい
以後のローマは教養豊かな高官上がりの司教アンブロシウスが皇帝をも凌ぐ権力を
持つようになります。アンブロシウスの権勢は以下のようなものです。

 (アンブロシウスは)テオドシウスに向かい何人とえいども神から受けた恩恵を忘れることは
 許されないと断固とした口調で強調したのだった。「神から受けた恩恵を忘れることは
 許されない」を言い換えると「誰のおかげて帝位についているのか」である。 
                          (「キリストの勝利」より)

極めつけはギリシャでの暴動を鎮圧した皇帝テオドシウスにアンブロシウスが謝罪を
要求。8ヵ月後公衆の面前で皇帝はこのしたたかな司教に懺悔をすることになります。

 これほどに現世の権力者に対する神の力を誇示したショーもなかった。(略) 
 まるで中世を象徴することの一つと言われる「カノッサの屈辱」を想起させる光景だ。
 (略)その前奏曲は700年も前に始まっていたのであった。
                          (「キリストの勝利」より)

中世ヨーロッパはご存知のようにキリスト教の価値観一辺倒の暗黒時代となります。
異端の名の下に多くの人が火あぶりにされたり十字軍の遠征という一神教の
弊害そのものといった事件も起こります。信教の自由が人権として認められるのは
17世紀の市民革命の時代になってからのことでした。

国家を信頼できなくなり、現世にも自分にも絶望した人間がご利益をもたらしてくれ
そうな強い神にすがるのは洋の東西を問わないのかもしれません。 今でも続く
国家と宗教の問題。疲弊した社会での人間の心。信仰の自由と国家のありかたの問題。
「キリストの勝利」は重いテーマを問いかけています。

この巻では後世「背教者」のレッテルを貼られた皇帝ユリアヌスが非常に丹念な文章で
描かれています。かつてのローマ帝国の寛容性を復活させようとしたユリアヌス。
19ヶ月の短い統治の末、31歳の若さで戦死したこの皇帝の治世が19年であれば
その後の歴史が変わったかもしれないと指摘する塩野さんの視点が斬新でした。
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プロフィール

けい

Author:けい
①群馬県でホルスタイン50頭、ジャージー牛5頭を飼養する家族経営の酪農家マダムです。

②1998年からベーベ工房というブランドでヨーグルトとモッツァレラチーズ及びリコッタチーズをハンドメイドで製造しています。安全でおいしい製品を誠実に作ることを信条としています。

③土作り、飼料作り~製品作りまで一貫して製造しています。

ベーベ工房も13周年を迎える事ができました。牛のこと、チーズのことなど日々のささやかな出来事を綴っていきたいと思っています。

ブログのスタンスですが、酪農とチーズのこと以外の、管理人の
趣味のことも書いてあります。なお記事の無断転載やコピーなどは
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