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安全と安心
初めに。食の安全と安心は一見同じようなものに見えますが
実は全く異なる概念と思考法です。私が正しくそれを理解
できたのはごく最近になってからです。

リスク管理の手法も徐々に社会に根付いて来ていますが、現在でも
小売業界が消費者に安心を訴えるためのキーワードは変わらずこれ。

  「生産者の顔の見える食品」

顔の見える食品や農産物は確かに生産者モラルを高め、消費者の信頼の
獲得に繋がりますが単に顔が見え、「心をこめて作りました」というだけでは
消費者の心に安心は与えられても安全までは保証されるわけではありません。
実は私自身も最近まで生産者の顔の見える食品という言葉の魔力で食の安全と
安心を混同していたと思います。

私に能力がないと言われればそれまでですが、10年以上さまざまな取引先から
売場や紹介記事に載せて、消費者に安心してもらうために写真を送って欲しいとか
牧場の様子を取材させて欲しいと言われて、売上もアップして、生産者の個人情報が
製品自体の安心だけでなく安全までも保証するものだと錯覚していたようです。

食の安全と安心は全く別の概念だということを例をあげて説明します。
消費者から「モッツァレラチーズが賞味期限が近くなると多少酸味が強くなる」
と問い合わせをいただいたとしましょう。

この時、自家生産の牛乳ですべて手作りで作っています。とか
ラベルに生産者の個人名を表記している顔の見えるチーズだから
大丈夫です。と言ってお客さんは納得するでしょうか?
逆に顔の見える手作りということを言わなくてもチーズの賞味期限内の
品質の変化の検査データを見せて「多少の食感の変化は大丈夫です」
説明するのとどちらがお客さんは安心して食べようと思うでしょうか?

ベーベ工房の製品は創業以来ずっと年に一度検査期間で菌数を調べ
飼料や材料などの仕様書や証明書をきちんと取り情報を取引先に
公開してきました。但し私の中で安全と安心は一緒の概念だったので
製品自体の説明や質問への回答でも、安全より安心に主眼を置いて
微妙な認識のズレがあったことは否定できません。

私が2ヶ月前から集中的にリスク管理を勉強したり製造環境の整備に
あたっているのは、今まで漠然としかわからなかった食の安全と安心の
概念について専門家に実に明確な定義づけをご教示いただいたことがきっかけです。
賞味期限についての私の質問に丁寧にお答えいただき
「賞味期限はモラルではなく純粋に科学的根拠で決めるべき」と
ご教示いただいた言葉は、私の大きなターニングポイントになりました。

安全と安心は文字の上でも似ていてまぎらわしいと思います。
わかりやすく説明すると

 食の安全に関わる事項   大腸菌など有害な菌がいないか
              水分量やPHはどうか。農薬や飼料は安全か製造環境は
              どうかなど科学的根拠のあるデータ。科学的な概念。

 食の安心に関わる事項   ラベルに連絡先や製造者個人名を表記。
              適切な作り手や家畜の情報開示。  
              質問には真摯に答える姿勢など。
              主観やモラルによっても左右される概念。

芸術系スポーツに例えれば安全が技術点なら安心は芸術点でしょうか。
消費者の立場ならば私もおいしさと価格が納得できて、生産者の情報が
ラベルなどに書かれていればそれだけで安心するでしょう。
でも生産者の立場に立てば、万が一の事故や不良品でなくても厳しい
質問を投げかけられることを想定していなければならず、食の安全を
根拠を持って把握しておくことは大切だと思っています。
安全のための仕事自身は利益を生むわけではありませんが
利益を生むもの=ブランドを守り維持してゆくためにも必要です。

追記

安全と安心の概念を正しく理解してからはむやみに主観的な仕事を
しなくなり、とても精神的に楽になりました。
私は基礎的な部分が安定していないとすべてのことが居心地が悪いのです。


理科系けいさま
ふざけたタイトルでごめんなさい。
お友達に珍しく理科系的思考で仕事をしているとメールに書いたら
彼女がユーモアたっぷりに書いてくれた宛名です。

ゼロリスクのエントリーで書いた賞味期間内にチーズの成分がどのように
変化するかの検査ですが、今回は乳製品の検査について一番詳しいと言われる
(財)日本乳業技術協会に依頼することにしました。

日本乳業技術協会HP

検体を送るのは京都旅行から帰って月末になりますが
電話で検査依頼の趣旨や項目について担当者とお話しました。
ここでもこのような検査は珍しいようでしたがとても意義があるだろうと
言っていただけたことや、検査のイメージや項目も私が考えているものと
専門家のそれが一致したことでちょっぴり理系思考に自信が持てました。
さらに実際の検体をみて項目を決める段取りですが

  水分(固形分)混砂法
  PH
  
などの項目を中心に調べて賞味期間内の成分の変化が
味や食感にどのように影響するかデータを取得するつもりです。

今までずっと作ることと技術的な分析(理科系思考分野)は
主人で営業や企画デザイン(文科系芸術系思考分野)は私と
完全に分業体制だったので私の左脳はほとんど冬眠状態。
ここ数日、チーズのかなり専門的な技術書を読み左脳を
使ったらかなり頭が疲れましたが久々に充足感を感じています。

チーズの食べ方や品質のお客様への説明は今までも数え切れないほど
してきました。そのたびに感じたのはチーズは発酵などが絡んだ
サイエンスなものだということ。今回の品質検査で品質の変化の
ある程度のことが科学的に理解できたら、春に料理研究家の石川みゆきさんに
作っていただいた素敵なレシピと写真を使って今度こそ悔いのない
チーズのリーフレットを作りたいと考えています。

ところで私は典型的な右脳が発達した文系人間ですが
チーズの専門書を真剣に読んで感じたのは大学生の頃、
専門課程の法律書を勉強していた感覚と同じだということ。
特に民法総則の代理の理論は数学的思考そのものです。
何だか懐かしい不思議な気持ちでチーズの勉強をしています。
かつては少しは理科系けいさんだった時代もあるのだなと感慨深いです。


ゼロリスクは無理だとしても
どんな食品でも全くのゼロリスクは不可能と言われています。
ゼロリスクの定義は以下の通りです。


ほんのわずかなリスクの存在も許さない。
完全主義、完璧主義。日本人は、何万分の一の確率であっても、
すべて危険と判断し不安に陥る傾向がある。(筆者註:BSEの風評被害など)

*対する用語が低リスク容認論 。

リスクマネジメントでは、予想されるリスクを全て洗い出し、リスク評価を行う。
識別したリスクにについては、優先順位をつけて対策を立てる。
このとき、対策を取らない(リスクを受け入れる)という選択もあり。

                   (KOBAの開拓日誌より)


消費者や小売業者はゼロリスクは不可能ということを
受忍して本当に危険なリスクは何かを判断できる賢さが求められます。

それに対して生産者はどのようにゼロリスクに向き合うべきか?
寛容な聡明さが消費者サイドに求められるのに対し、矛盾するようですが
これだけ食も情報源も複雑化した社会では、最初から生産者がゼロリスクは
不可能ですとある種の開き直りをしてはならない厳しさが求められます。
わかりやすく言うと、リスクがゼロということは不可能にしても
できる限りリスクをゼロに近づける努力と多少のリスクが予見できる場合は
科学的な根拠に基づいて誠実に説明義務を持つということです。

リスク管理について先日専門家にご指導を頂いたのですが
プロの生産者として、心にずしりと響いたのはこの生産者の
ゼロリスクに対する心構えでした。

総論が長くなりましたが、ずっと長い間チーズの品質管理について
お客様から幾度か質問をいただきどのように説明をするのが一番
正確なのか悩んできたのが次のようなことでした。

 ① リコッタチーズを買って冷蔵庫に入れておいたら賞味期限を
   数日過ぎてしまったが生で食べられるのか?

 ② モッツァレラチーズを店で賞味期限に近いものを買ったら
   入荷してすぐのものより表面が柔らかいけれどこれは何故か?

もちろん、今までも実際に味見をして異変がなければ安心して
召し上がって下さいと料理方法などもご紹介しながらできる限り
誠実にお答えしてお客様にも納得していただいていましたが
サンプル採取はしているものの、データでチーズが賞味期限内で
どのような成分の変化をしているか把握していない(おそらくここまで
検査している生産者は皆無でしょうが)状況にかすかに苛立ちを感じていました。

検査機関もこのような成分の変化の分析をした経験がないので
検査項目から決めてゆくことになりますが、取引先やお客様への
情報開示を根拠を持って行うために近く検査を依頼する予定です。
ナチュラルチーズが普及した顕在、私たちだけでなく「フレッシュチーズだから
早く食べてください」だけでは今後は説明不足かもしれません。

ゼロリスクはどの食品も不可能です。
でもできうる限りリスクを抑えるべく誠実に生産努力をする生産者と
正しい知識とある種の寛容さを備えた消費者が邂逅することから生れる
食への信頼があるはずです。それを遠い目標にゼロリスクを考えたいと思います。
まとまらない文章で恐縮ですが思考プロセスの記録でもあるのでご容赦を。


お茶

  真剣に勉強すると疲れます。(笑)
  愛用のミントンのカップでジャスミンティーと
  チョコレートでリラックスしながらやっています。


品質管理状況確認シート
2007年に老舗ブランドで賞味期限の改竄などの不祥事が相次いで発覚し
これらを扱う百貨店でも顧客の信頼を損なう深刻な事態となり
私たちも取引している名古屋高島屋のバイヤーからすべての食品事業者に
対して品質管理状況確認シートを至急提出するように指示が出ました。

その品質管理状況確認シートの項目を元に独自の確認シートを
作り、取引先にデータを開示し、また営業にも使っています。

            品質管理状況確認シート

 ① 体制

   A 記入年月日と記入者 
   B 商品アイテム
   C 製造書所在地
   D 依頼検査機関名と所在地
   E 取得している営業許可

 ② 産地証明

  A 産地(特徴・付加価値)表示を行っている商品があるか
     (註: 比内地鶏 松阪牛など)
   ある場合は産地や特徴表示の証明書を取得しているか
   (ベーベ工房の場合産地表示はしていませんが酪農家が
   自ら生産した牛乳で製品を製造しているということの証明に
   組合の乳質検査票や何頭かの牛の登録証を添付しています)

  B 商品仕様書を所有しているか
    (原料の甜菜糖や乳酸菌、乳質証明書や製造のフローチャートを添付)

 ③ 残品処理

  製品の納品方法及び残品処理の方法
   (基本的に予約販売で買取なので地元の直売所で
   まれに残品が出たときは持ち帰ったうえで廃棄している)
 
 ④ 消費期限又は賞味期限の根拠となる保存試験結果
   (以前から検査機関で取得しています。これがなくて
    証明が取れるまで出荷停止になった会社もあるとききました)
   


2007年に相次いだ老舗の不祥事への対策とはいえさすがに
高島屋の求める品質管理状況確認シートはひとつひとつの項目が
消費者の信頼に応えるために納得のゆくものでした。
特に小規模な生産者の参考になれば幸いです。

ベーベ工房では検査機関のデータを取りさらに詳しい
製品の分析を行っている最中です。

PS
  カテゴリーに食の安全・リスク管理を設けました。
30年続くブランドのために
唐突ですが、ベーベ工房の仕事は息子が大学を卒業して社会に出るであろう
2027年で私の仕事としては一区切りつけようと以前から考えています。
もちろん、その日まで信頼され愛される製品を作ることができるように
最大限の努力をするという前提での話です。

住宅建築のCMなどで時々100年安心して住める家というフレーズが
出てきますが、それに倣えば30年続く農家製チーズとヨーグルトと
いうことになります。
そのために私が8月以来改めて初心に返って基礎の基礎から自分なりに
勉強をしているのが、安全で安心な製品を作るためのリスク管理です。

ベーベ工房もお取引先に恵まれ12年目を迎えることができました。
それはとても光栄なことですが、若さと酪農家の純粋な気持で
道を切り拓いてきた今までと違い、これからは行き詰ったときに
自分の拠り所になるしっかりした技術と経験をベースにした自分の
足場を作ることがあと最低17年続くためには必要だと思っています。
食の安全と安心そしてプロの生産者としての責任を果たすための
リスク管理を基礎の基礎から考えて勉強しているのはそのためです。

経験と実績を積んでゆくと自信もできる反面自分の至らない
ところや欠点も悲しいかなわかってきます。
私は感受性は豊かだと自他共に認めていますが、その感受性が
リスク管理の部分ではいささか弱点になっていたと反省しています。
そして30代で始めた時に比べてこれからは失ってゆく一方の
若さと若いからこそ純粋と大目にみていただけた未熟さ。
今後は正確で客観的な深い知識やプロとしての見識の高さ豊かさ
なくしては信頼される生産者でいられなくなるでしょう。

食の安全・安心もリスク管理も本当に奥が深く身につけるべき
知識や経験は山積しています。でも主観だけに頼りがちでどこか
不安だった今までに比べてリスク管理等を指導していただけて
それを考えて勉強している現在がいかに穏やかな気持ちでいられることか。

あと17年。その間には苦しいこともあるでしょう。
それを乗り切って悔いのない引退の時を迎えられるように
30年続くブランドを作れるように真摯に日々を頑張りたいと思っています。




プロフィール

けい

Author:けい
①群馬県でホルスタイン50頭、ジャージー牛5頭を飼養する家族経営の酪農家マダムです。

②1998年からベーベ工房というブランドでヨーグルトとモッツァレラチーズ及びリコッタチーズをハンドメイドで製造しています。安全でおいしい製品を誠実に作ることを信条としています。

③土作り、飼料作り~製品作りまで一貫して製造しています。

ベーベ工房も13周年を迎える事ができました。牛のこと、チーズのことなど日々のささやかな出来事を綴っていきたいと思っています。

ブログのスタンスですが、酪農とチーズのこと以外の、管理人の
趣味のことも書いてあります。なお記事の無断転載やコピーなどは
ご遠慮くださいますようお願い致します。

製品に関するお問い合わせは以下のアドレスにお願いします。

ベーベ工房のアドレス

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